「断る」


「なんでですかあ!」


彼女はまるで予想外だったとでも言いたげだ。


「得体の知れん。そんなのやれんぞ」


「うぅ…あなたになってもらわないと、私大変なことになっちゃうんですよー…」


彼女は今にも泣き出しそうな顔になった。


「…良いですか?サンタクロースになるには、たくさんの条件が必要なんです。まず第一にですね…」


彼女の言うことを纏めると、次のような感じだ。

・善人であること
・子どもが好きであること
・欲望に負けない信念と意志があること
・献身的であること
・秘密を守れる人であること


「…だいたいはこんな感じです。加えて、男性に限っては、女性経験があること…ですね。私たちサンタクロースは、これらの項目に当てはまる人材を探して候補生とし、約半年に渡って審査を行うんです。サンタクロース適合者なら後を引き継いでもらい、不適合となったらまた次の人材を探す…そんな風に回ってるんだそうです」


彼女は人差し指を立ててそう説明した。


「…で、俺はそれに当てはまってしまったと」


「はい。圭介くんは、ただ一つを除いて本当に完璧だと私は思ったので。…その一つも、さっき私が解決しましたし…」


彼女は顔をまた赤らめた。


「げっ、つまり営業だったってことか! 僕のファーストキスを返せー!」


「あっ、その、勘違いしないでください! 別に次の候補生を探すために残っても良かったんですからね?」


「…なんでそうしなかったんだよ」


「就活が…ヤバイんですよぉ…」


彼女は涙目になる。


「就活…?もしかして、僕より年上?」


「大学3年の21歳です…私も去年、圭介くんと同じようにサンタに選ばれたので」


…なるほど、たしかに20になった時にサンタクロースになるのだとすれば、次にサンタとして活動するのは21の時だ。


「それで後継者を探さないと大変なことになるってか。サンタクロースも大変だな」


僕は軽く息をついた。


「けど、楽しいと思いませんか!? だって、子どもたちが喜んでくれるんですよ!! 圭介くんは、子どもの時にサンタクロースに憧れたり、感謝したりしませんでしたか??」


「…確かに、そうだな」


「私は子どもが好きだから、子どもたちがきっと喜んでくれるから、子どものころ憧れの存在だったサンタクロースになれるからって思って、サンタクロースになろうって思ったんです!だから圭介くんも、私たちと一緒に来てくれませんか…?」


サンタクロースの話をする時の彼女の目は輝いていた。
きっと、本当にこの活動が好きで、楽しくてたまらないのだろう。


「…わかった。僕が辞退したら、坂井さんも困るもんね」


「ありがとう。圭介くん…。」


彼女は安堵の表情を浮かべる。


「どういたしまして」


「あっ、あと、私のことは名前で呼んでくださいね。私は圭介くんの彼女ですから、一応」


そう言った彼女は、愛想笑いとも照れ笑いともとれる表情で笑った。



「…あの、今さらなんですが、サンタクロースを務めるのはかなり大変ですが、大丈夫ですか?」


話がひと段落ついたころ、彼女はふいにそう口にした。


「…ほんとに今さらだな。男に二言はないっていうだろ。それだ」


僕は頭をかきながらそう言った。


「…ありがとうございます。やっぱり圭介くんは、私の選んだ人です」


彼女は笑顔をみせた。
人を惹きつけるような、そんな笑顔だ。


「大変でも、力及ばずかもしれないですが私も居ますから、頼ってくださいね!サンタ界では私、先輩ですから!」


彼女はそう言ってガッツポーズを決める。


「西暦でもそうでしょ、美咲先輩」


「…はいっ、そうでした♪」