「………。」


彼女に触れていた唇が離れる。
近くに居すぎてぶれていた彼女の顔が、次第にはっきりと輪郭を作っていく。
目を瞑っている彼女の頬は、薄く染まっていた。


「…ありがとう」


名前も知らない女の子は照れたような顔で笑った。
僕の心臓が、ドキリ、と波打つ。


「…い、いや。つかさ、君の名前、まだ聞いてない……」


照れ隠しのように僕は訊いた。


「…サンタです。」


彼女はまた照れくさそうに笑って答えた。


「いや、そうじゃなくてだな」


そんな僕の言葉を予想していたかのように、彼女は答える。


「美咲といいます。坂井…美咲です」


笑顔を浮かべる彼女。
彼女の笑顔は、既に僕の心に刺さっていた。



「そっか。えーと、俺は三浦圭介。前に、どこかで会ったことあったっけ? さっき名前を呼ばれた気がして」


「私はサンタですよ? 良い子リストがちゃんとあって、プレゼントをお届けするんですから、知ってて当たり前です♪」


彼女は当然ですよと言わんばかりの顔だ。


「…なるほどわからん。君は一体何をしに来たんだ? 僕はもう、プレゼントを貰うような年じゃないだろ。もう20歳だし、どっちかといえばあげる側でーー」


「…待ってください。あと、1分」


彼女は突然僕を制止した。


「…? 待てば良いんだな」


気まずい沈黙が、1分と言う時を刻んだ。