12月24日
午後23時50分。


「さあ、準備は良いか?」


同じ浜松市担当のサンタクロースが僕に声をかける。


「はい!いつでも行けます!」


そこはとある建物の屋根の上。
辺りに高い建物は少なく、夜の闇と街明かりが星空を描く。
ここから空飛ぶそりを運転し、僕らサンタクロースはプレゼント配達に出る。


「圭介くん、運転がんば!」


美咲さんは僕の後ろに座って両手でガッツポーズをする。


「…美咲先輩はなんでまた居るんですか。あなた引退したでしょうに」


「えーと、ほら、圭介くんのことが心配でさあ…」


美咲さんはバレバレの嘘をついた。


「…サンタさんは嘘つきませんね?」


僕はそれを揚げ足取りのようにして訊き返す。


「…もう一回そりに乗りたかったんです。ごめんなさい」


美咲さんはしゅんとした。


「よろしい。…しかし、空飛ぶそりとはやりますね! どんな仕組みか気になります!なんで動くんですかこれ!」


僕は興味津々で訊いた。


「それはお前、そこに『ミチ』があるからだろ」


同じ浜松市担当のサンタクロースは何気なく言う。


「何私上手いこと言ったみたいな顔してるんですか!? いや上手いですけど! っていうか僕が聞きたいのはそこじゃなくて」


「さあみんな準備は良いか!いくぞ!」


「ちょっ、聞いてくださいって!」


「出発!」


12月25日
午前0時0分。

サンタクロースの乗るそりが、一斉に走り出した。

「うひゃあ!圭介くん!ジェットコースターみたいだね!」


美咲さんは子どものようなはしゃぎ様だ。


「僕はゴーカート気分ですけどね! 急ぎますよ!」


と僕は、スピードを上げる。


「わかった! ぴゅーん!」


彼女は突然、そう叫んだ。
その声はたまらなく可愛くて。


「えっ何ですかその掛け声! あとで録音させてくださ」


「いっ、良いから前向いて!」


美咲さんは僕のサンタ服をぎゅっと掴んで言った。


「…はい!しっかり摑まっててくださいね! でもあとでろく」


「もう黙って!!」


美咲さんはさらにぎゅっと僕の服を掴んだ。