「…山崎先輩に散々笑われましたね、美咲先輩」


山崎先輩と別れた帰り道、僕は美咲先輩に話しかけた。


「うう…私はなんて駄目なサンタなんだろう…ごめんね、圭介くん」


はあ、とため息をつく美咲先輩。


「い、いや、良いんですよ!」


「だから就活も上手くいかないのかしら…私駄目な子なのかな…」


ダメだ。美咲先輩ネガティブスパイラルに陥ってる。


「そんなことないですよ!それは先代の城さん?って人が説明不足だっただけで…」


「なぐさめてくれてありがとうね。…それじゃあ、今日の研修の最後に、ルールを伝えておきます」


暗いオーラを纏った美咲先輩はテンションの低い声で僕に言った。


「…はい。わかりました」


「まず、自分がサンタクロースであることを外部に漏らさないこと。また、他のサンタクロース及びサンタクロース活動に関係する一切の情報を口外しないこと。…秘密は守ってねってことね」


「了解です」


「それから、サンタクロース活動に関わる道具を悪用しないこと。これは言うまでもないと思うけど、他人のプライベートを傷つけやすい立場にあるから気をつけてね。男の子は特に」


「…?どういうことですか?」


「かかってる鍵を空けたり、透視したり盗聴したりできるのよ、私たちは」


「犯罪じゃないすか…」


「だから正しく使うようにってことね。もしこれらの規則を破った場合…」


「どうなるんですか?」


「罰則は特にはないみたい。ただ、不適合者とみなされてサンタクロースの権利を剥奪される…それだけかな」


先輩はそこまで説明して息をついた。


「…あんまり損しないですね。寧ろ解放されて得なんじゃないですか?」


「た、たしかに…。でも私は、圭介くんを信じてるからね! …私を、路頭に迷わせないでね、圭介くん」


その口調はまるで僕を引き止めようと必死になっているように聞こえた。


「…はい」


僕は力なく答えた。