「風志〜宿題みーせて」



例のごとく二戸が俺の机にあごをのせて、首をかしげた。
ウインクまでしそうな勢いだ。

俺より背の高い男がやっても、なにも可愛くない。



「500円」

「風志くんのけちい」

「嫌ならほかを当たることだな」

「ええーいいじゃん、数学はお前が一番正確なんだよ」





「…?」






そんな雑談をしていると、なにかぴりぴりとしたものを感じとった。

な、なんだ、この嫌な感じは…。



不安になり辺りを見回す。

すると、一つの視線がこちらに向けられていることに気づいた。



「…あのー」

「え、なに?見せてくれる気になった?さっすが風志くんいけめんあいして」
「お前。あれ何に見える?」


「んあ?」



俺が指差したほうを、二戸も首を向ける。


視線の先の相手は、二戸がそちらを向くとにこり、と笑って立ち去った。




「…手島?が、どうかした?」

「いや。すげーこっち見てたなって」


しかもあれだ、これはどこかで見覚えがある。
過去にもこのようなことがあったな、と思い出した。





「そう?気のせいじゃねえ?」


二戸はモテる。

この視線はよくバスケの大会を見に行ったとき、二戸の隣にいると、よく感じていた。




「俺、睨まれてるよな…」

「ええ?なんでだよーははは」


なんでってそりゃあ、さ。

俺は小さくため息をつく。





「お前のこと、好きだからだろ。手島が」

「ええーーははは。モテる男は困るぜ?」




バカか、このやろう。



どう見てもそうだろうが。



手島こずえは、二戸のバスケ部のマネージャーだった。
彼女も確か既に近隣の大学に進学が決まっていたように思う。



髪が長くて、元気で、かわいい。

彼女もまた、陽のもとに生まれてきたような人間だ。



俺とは別人種。