あれは、いつだったろう。



確か、二戸と仲良くなりだしたときのことだ。




「…奥平のさ」

「うん?」

「名前。なんて読むの?かぜし?ふうし?」



プリントに書かれた俺の名前を指差す。
平べったくて大きな手だ。



「かざし」



そう答えると、二戸もまた「かざし」と繰り返した。


「風、に志でかざし、か。へえーかっけえ」

「そうか?風に吹かれそうな志って感じじゃない?」


前々から俺はそう思っていた。
なんて薄っぺらい志なんだ、と。


なんだそれ、と笑われる。


「いや、逆だろ」

「逆?」

「うん。高くても風に飛ばされないような、志」



そんなことは初めて言われた。

たぶんこの名前をつけた親はそんなことは思っていないだろう。
なぜなら俺の名前は父親とじいさんの名前から一文字とって安易につけられたのだから。



「お前すごいな」

「ええ、なんで」

「ポジティブ変換機能がついてるみたいだ」

「なんだし、それ」



ひとしきりお互いの名前の由来で盛り上がると、一息ついて二戸がでもさ、と言った。



「志っていいよな。あれさ、バスケの応援とかでも使われるけど、かっけえよ」

「そうか?」


俺は自分の名前として毎日見てるので特になんとも思わない。



「あれ、思い出すよな。有名な、北海道の」

「クラーク博士?」

「そう、それ。”少年よ、大志を抱け”」

「ボーイズ・ビー・アンビシャスか」



そう言われて、北海道の大地にあるクラーク博士の有名な銅像を思い出した。

あのおっさんも、自分のそんな言葉が何十年もこの世で語り継がれるとは思わなかっただろう。