「寂しいとか、思ってんの?」

「うん。めちゃくちゃ」



こういうことには、素直だよな、ほんと。

二戸は本当に寂しそうだった。




「でも、地元に残る奴だっているだろ。一生あえなくなる訳じゃないし」

「うん…」

「俺も、休みには帰るし…」

「うん」





”正直になる”


ふいに、手島こずえの言葉を思い出した。


馬鹿か、と苦笑いをする。


結末は、変わらない。





「そんな心配する前に、俺が受かるかどうかの心配が先だ。まだ受かると決まった訳じゃない。浪人したら来年も一緒だ」

「それはそれでうれしいけど。風志は大丈夫だ。なんか、わかんないけどそんな気がする」




なんて、根拠のない適当なことを言いやがって。

でも、こいつが言うとなんとなくそんな気になってしまうから不思議だ。




ああ。




「風志なら、受かる」



ああ、好きだ。






俺とお前の人生は、決して重なることはないというのに。



「お前は、ここに残る人間じゃないよ」

「どういうことだよ?」

「そのままの意味だ」




二戸はいつかの歌を流す。

静かな教室によく響いた。






「これ、よく聞いたよな」

「お前が好きだからだろ」

「ん…これが一番好きだ」


机に伏せて、空を見上げる。
相変わらずその表情は見えない。







「お前がいなくなったら、さみしいな…」





ぼそりと、そんなことを呟くのだから困る。




俺たちの道は重ならない。




今、あるこのときは、たまたま交差した点でしかない。



そんな、一瞬のときを俺たちは生きているんだ。