「あ、一番星」





指差した先に、小さな光が見えた。


「はやいな、まだ夕方にもなってないのに」

「星もお前に見つかりたかったんだろ」



残暑は残るけれど、空は秋に近づいていた。

教室から校庭をのぞくと、サッカー部と野球部の練習がよく見えた。

掛け声が校内に響く。




「今日も予備校?」

「そ。6時から」


夏期講習から予備校に通い始めた。

今の勉強量では志望校は難しいと言われたからだった。




「風志は頭いいからなー」

「お前本気か」

「うん。少なくとも俺よりは」

「お前は勉強が嫌いなだけだろう」




二戸は別に馬鹿じゃない。

やればできるし、やらないだけだ。

なのにやらないから、テスト前は信じられないくらい集中して今までやらなかったぶんを取り戻す。
おかけで成績は俺とあまり変わらない。





「勉強は嫌いだなあ〜」


からからといつもの調子で笑う。

俺は構わず参考書の問題を解いていた。
二戸は俺のウォークマンをいじって、適当に曲を流す。


「風志」

「……ん」


あと一歩で解ける、というときに二戸が口を開いた。











「風志。俺、北山大学に行くよ」











「え…」




「こないだの県大会でさ、スカウトされたんだ。すごくね?向こうのバスケ部の監督がさ、是非きてくれって…見るだけでもっていうから、先週練習に参加してきたんだ。そしたら、やっぱみんな強くて」

「に、二戸…」




まくし立てたように、一気に喋りはじめる。

奴の表情が見れない。




「高校でたら、バスケやめようと思ってたんだけど、やっぱり…」





向かいに座っている二戸が目を伏せた。

遠くで部活のかけ声が聞こえる。


二人しかいない教室は、がらんとしていた。