手島ははああ、とため息をつく。
ため息をつきたいのはこっちだ畜生。
「やっぱり…かあ」
「あ、あの…手島さん?」
やっぱり座りたい、という手島に従いグラウンドの端のベンチに腰掛ける。
木陰になっており、幾分涼しい。
「心配しないでよ、言いふらしたりしないから」
「…ああ、そう」
「いつから?」
「え?」
「いつから、好きなの?中学違うよね?」
変な感じだった。
二戸のことを、こんなふうに話すことなんてなかったから。
”好きな人”として話すなんて、ましてや同級生に。
「去年の、文化祭…」
「そうなんだ…あ、奥平くん歌ってたよね」
「ああ、うん」
いまだにあのときの話は苦手だ。
「あれ、よかったよ。かっこよかった」
「あ、ありがとう」
こんなところで賞賛を受けるとは思わなかった。
「手島さん、気持ち悪くないの?」
「え?なにが?」
「だって、俺男なのに…」
気になっていたことを口にすると、手島はあ、と疑問が解けたような顔をした。
「うん、平気。前からそうなのかなって思ってたし」
「そ、そんなふうに見えた…?」
多少なりとも落ち込む。
もしかして二戸のことを熱い視線で追っていたとか、表情に出てたとかか?
「大丈夫、他の人は気づいてなんかいないよ。でも……はあ」
「え?」
「恋敵が、男なんて…」
手島は頭をかかえて項垂れた。
「はじめから、負けているような気分…」
「え、それは俺だよ」
「なんで。いっつも二戸くんといるじゃん」
「そりゃ友達だもん。でも付き合ったりとか…結末がないんだよ、俺は」
「なんで。男だから?」
「それ以外にどんな理由があんだよっ」
思わず声を荒げてしまう。
なんか、胸のあたりがきゅうきゅうと痛いんだ。
二戸との結末なんてない。
口にすることで余計、そのことを思い知ってしまった。
目の前のこの女の子には、結末があると言うのに。
きらきらとした、結末。
二戸や手島こずえにはよく似合う。
でも、俺には。


