「奥平くん、さあ」






俺は計算は得意だ。

何しろ理系だからな。


でも現国はめっきりだめだ。

もともと話も得意じゃない。



つまり、だ。



「ねえ、聞いてんの?」




この女の言っている意味がわからない。





「え、ごめんもう一回」

「だからあ…」



手島こずえはピンク色の唇を尖らせたが、もう一度一から話し始めた。


「奥平君、こないだの試合来てたじゃない」

「あ、県大会決勝?」

「あ、それよそれ」



手島は二戸のバスケ部のマネージャーだ。
あの日、俺を睨んでいたのはこいつだ。


「スポーツなんて、興味ないって顔してんのに」

「それは友達が出てるから…」

「二戸くんでしょ」



座らない?と手島はベンチを指差したが、俺は首を振った。

手島はかわいい。


こんな校内の目立つところで、二人で話してもみろ、ちゃかされるのが目に見えてわかる。

ベンチで二人で座るなんて…例えば二戸がやってもなんともないだろうが、俺は別だ。


俺が手島に片思いをしている、と明日には噂になってしまう。




「まあ、いいけど」


手島は長い髪をうしろで一つにくくり、細いうなじが見えている。

すこし汗ばんでいて、髪がほおについていた。


「単刀直入に言う」

「お、おう」

「二戸くんのこと、好きなんでしょ」

「…は?」




大きな目をぱちぱちとさせて、手島こずえは堂々と言い放った。




「いや、まあ、友達だし」

「ちがうちがう、そういう意味じゃなくて。わかってんでしょ?」



ソウイウイミジャナク?


ならば、どういう意味だこら言ってみろ。



「え、あの…」


とは言えずにどもる俺。

なさけない。

動揺が隠しきれてない。

だめだ。



だめだ、これは。



手島こずえは、俺の気持ちに気づいている。




「…やっぱり」