『せんせっ……』


 小泉は、いつかのように俺に抱きついて泣いた。


 大声で。


 「何があったんだよ。」そう、言いたかったけど、聞いちゃいけないって思った。


 なんとなくだけど。


 必死に隠してるってことは、小泉にとって大事なものだって思う。


 もしも、守りたいものがあるのなら。


 それに触れないで抱きしめるのが、今は、『優しさ』ってものじゃねぇのか?




 今思えば、もしかしたら間違いだったのかもしれない。


 この時、きちんと小泉に聞けばよかった。


 ……抱きしめなきゃ良かった。


 俺のせいで、あんなことになるなんて。


 小泉を傷つけることになるなんて。


 小泉が守ろうとしていた大事なものは、悲しすぎた。



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 プルルルルルッ


 学校の電話が鳴った。


「……はい。華野宮高校です。」


「池谷先生は、おられますか!?蛍が……家の前で倒れて……!病院にき……」


 ほとんど聞き取れないような声。

 蛍って、小泉?

 -倒れた?
 -病院?

 電話越しの男の人の声は、動揺を隠しきれていない。


「分かりました!!すぐに向かいます」


 俺は、電話を切った。