だとしたら、最低だ。

 いや、確実に狙っていた。


「まさか。そろそろ行こっか、教室。ほら、立つ!」


 先生はそう言ってあたしを布団から強引に出した。


「きゃっ……」


 突然のことで思わず奇声を上げてしまった。


「俺、池谷瞬(いけたにしゅん)24歳。担当、数学。よろしくな、小泉!!」


 先生は今までで一番輝いた笑顔を見せた。


 もしかして、あたしが初めてかもしれない……なんて、あるわけないことを考えた。


「はい、よろしくです。池谷先生。」


 こうやって呼ぶのも、あたしが初めてかもしれない。

 もしかすると、こうやって話すのも。

 名前を呼ばれるのも。


 全部、全部。

 あたしが初めてかもしれない。


 ……なんて。


「よし、行くか。」


 そう言って先生がカーテンを開け、保健室からも出ようとした時。


「あっ、池谷先生。小泉さんも。」


 保健の林先生が来た。


「林先生。もう、行きますんで。ありがとうございました。」


「いえ、運んでくださって、看病まで……」


 ん?えっと、もしかして……


「先生、もしかしてずっとここに一人でいたの!?」


「あぁ、林先生が抜けられなかったし。」


 マジか!?

 あたしの寝顔、ばっちり見られたの!?