喋る気なんだろうけど、気を利かせてくれてるのか、話しもしてこない。


 誰がいるの……?

 気になるけど、覗いて目が合ったら話さなきゃいけないだろうし……



 でも、恐る恐る聞いてみた。


「真心……?」


「麻実ちゃん……?」


 どれも返事がない。


「……誰ですか」


 ムカついてそう訊ねると、思っていた声ではなかった。


「……出てこないと答えない。」



 聞いたことのある、低い声。

 真心でも、麻実ちゃんでもない。


 ずっと頭の中にいる、愛しい人の声。



「……池谷先生……?」



「……」


 返答はない。

 でも、誰かなんてすぐ分かった。



  まさか。

 来てほしくない人。

 休む原因となった人。

 一番、会いたくなかった人。



 でも、本当に大好きで、ずっと想いながら過ごしていて、もしかしたら、一番会いたかった人。


 なんで、来るの……

 あたしは、会いたくなかったのに……


 苦しいのに、嫌なのに、今は、温かい涙が頬を伝った。