今は、誰とも話したくない。

 先生のこと、きちんと考えたいから。


「蛍ー?入るわよー。」


 お母さんの声がする。


「ご飯の時にして。麻実ちゃんも、帰ってくれない?ごめん。」


「何言ってんの、蛍。麻実ちゃん、今日は来てないわよ。」


 え……

 でも、階段を上る足音は2つだった。


「でも、もう一人いるでしょ?」


「えぇ。」


「もしかして、真心?」


「もう、誰でもいいじゃない。喋りたいって。」


 お母さんはそう言うと、『誰か』に話しかけていた。


 嫌だな……


 あたしはベットに潜り込んだ。



 あたしが返事しないから諦めたとでも思ったお母さんが、ドアを開けた。


 それを確認すると、もう出ないと決め、また布団を被った。


 「ごゆっくり」


 お母さんの声が聞こえる。


 敬語……?

 っていうか、ごゆっくりしないで帰ってほしい。


 部屋のドアが閉まる音が聞こえた。


 お母さんは、きっといない。

 つまり、今あたしは誰か分からない人と部屋で二人きり。


 男だったらヤバいけど、幸い、男友達なんて一人もいない。


 何分も、誰かとは喋らなかった。