「お願い……っ捨てないでっ……」


 ……んっ?


 急に聞こえてきた、泣いているみたいな声で、あたしの思考は止まった。

 足も止まった。


 誰……?


 見ちゃいけないんだけど、気になる。

 声のする方に行って、覗いてしまった。


 でも、すぐに後悔した。




 ……キスしていた。


 きれいな女の人と……




  池谷先生が。




「せんっ……せい……?」


 つい、呟いてしまった。


 ハッと気づいて慌てて口を塞いだけれど、二人には聞こえてなくて、続きが始まる。


  見たくないっ……!


 さっと、近くの電柱に隠れた。


 涙が、頬を伝う。


「……っ……」


 声を押し殺して泣いた。

 顔を、鞄で隠した。


「……いた、小泉蛍。……もしもし。あぁ、分かってるよ。あいつなんて好きじゃない。」


 こっちを見る視線に、気づかずに。


 なんで、毎回あたしは。

 こんな傷つく思いばかりするの……


 これからまた、苦しい恋が、始まる気が、する。