多嘉嶺君は溜め息混じりで、フレッドを睨むと、フレッドは苦笑して私の肩から腕をそっと離した。

「羽をもいだ…?わかるように……っわかるように、説明して下さい!?私、家に帰らないと…」


「落ち着いて、今説明しますから!」

慌てふためく私に、多嘉嶺君はを宥めるように言いきると、頭に手を当てて難しい顔をしていた。

その顔を見て、彼も困惑しているのがわかり、私は口をつぐみ、自分の手をギュッと握りしめる。

「っ」

「すいません、ええと、どこから説明したものか…先程、我々吸血鬼の血が強いといいましたよね?」

「え、ええ。」

「…その、花嫁は妊娠したときに、胎児に大量の栄養分を吸収されてしまいます。それを防ぐためには吸血鬼の血に耐性をもたさなければいけません。なので、吸血鬼は花嫁に自分の血と、唾液を飲ませます。そうする事により…花嫁の遺伝子が爆発的に活発化し…吸血鬼なみの寿命と若さを保たせるのです。

我々吸血鬼は血と、唾液を与える行為を血を婚(くな)ぐと書いて血婚(けっこん)と呼びます。」

「血婚…」

「…血婚した花嫁は自動的に吸血鬼の支配下におかれます。吸血鬼は独占欲が強いため、もし、吸血鬼の側から花嫁が離れたり、死別したら…吸血鬼は確実に精神的な安定をなくし…手がつけられなくなります。とくに、フレッドの血族は偏食で、花嫁が死ねば餓死します。」



「餓死って…」

何がなんだかわからない。意味が理解できないのは私の頭が悪いのもあるが、突飛すぎる話に頭がついていけない。

つまり、あのキスで私とフレッドは血婚して…私はフレッドの花嫁になったから帰れないってことを言っているのか?

そうなれば、私は…どうなるのだ。

不安と恐怖が胸を締め付けていく。

この二人は、最初から吸血鬼の本意の事しか説明していないそれは。現在、花嫁となった私には意見することも拒否権も与える気がないのだ

思えば、多嘉嶺君にしろ、吸血鬼の機密をべらべらと私に説明していると言うことは、最初から何らかの処分するつもりだったのだろう。

彼にとって私は不法浸入者だ。良くて蓮条市に軟禁ぐらいするつもりだったに違いない。

偏食のフレッドが私を吸血していなかったら、私が今生きていられなかったのでは?

その疑問に軽く身震いした。何だか周りの空気が寒い。

「…っ…。」


言葉を出したいのに言いたい事が纏まらなかったが、私の中では結論は既に出ていた。

「とりあえず…帰ります。」


「話を聞いてましたか?」

「ええ、聞いていました。しかし、両親には報せないと…。」

「それは、こちらでいたします。」

「そう言う問題ではありません!ただでさえ、妹の事で母は体調を崩し、父も心労がたまっています。その上、何も言わずに私までいなくなれば、私はきっとこの先後悔することになります。」

「……御両親に直に別れを告げたいのはわかりますが、それは…」

言い渋る多嘉嶺君の様子からして、厳しいことは分かるが、私までいなくなれば両親は間違いなくここに乗り込んでくるだろう。

過保護だった覚えはないが、それなりに親子の絆はあるとは思う。子供を二人も獲られれば親としては黙っていない人たちだ。何をするかわからない。

私が顔をあげて、言葉を続けようと口をあけると、黙っていたフレッドが私の腰に手を回して、私を抱き寄せた。

「いいんじゃない?その代わり、俺も一緒に着いていくし。」

「フレッド!!」

「多嘉嶺くんは細かすぎ~。俺が花嫁ひとり守れないと?」

「いえ、それは流石に…。」

「要は、トウカが花嫁だと外の人間にバレなきゃいいんでしょ?なら大丈夫。今ならまだ公表前だしいいじゃない。俺、冬歌には後腐れなく嫁いでもらいたいし。」

「ね?」と無邪気に私を抱き締めて微笑むフレッドに、多嘉嶺くんは深い溜め息を溢してチラリと私とフレッドを交互にみた。

「ちゃんと帰えってくると約束してくれますね?」

「うん、するする~。」

「…とりあえず見張りにエドウィと、金嶋をつけます。期限は明日までです。それ以上は庇えませんよ。」

「え、じゃあ…帰宅しても?」

思わず笑顔を浮かべると、多嘉嶺君は釘をさすように真剣な顔で「あくまでも明日の夕方までです!」と一言つけ添えると、立ち上がり部屋をあわただしく出ていた。

「よかったね。」

「……はあ。」

果たして、それが良かったのかは解らないが、私はフレッドの腕の中で、どうしたものかと溜め息を溢した。