退院してすぐに夏休みに入った。
この高校は夏休みの期間が長く、7月になってからはもう夏休みだ。
30日が日曜日だったために学校には事故から1度も行っていない。
友美にはサッカー部を辞めることを話した。
理由を言うと、友美はとても悲しそうだった。
先生に理由を言って、退部届を出させてもらった。
先生には申し訳なかったけど、あたしは自分のことで精一杯で、何も言うことができなかった。
夏休みはひたすら勉強をした。
それしか、やることがなかったんだ。
夏休みが終わって、いよいよ新学期となった。
始業式が終わっても、家ですることがないと思ったから、あたしは校内を適当に回ることにした。
2階にある自分の教室を出て、階段を上った。
3階の1番はしにある教室を見つけて、入ってみるとそこは空き教室だった。
前のドアは開かないし、後ろのドアも片側しか開かなかった。
自分の教室よりも広く感じるのは、机とか本来教室にある物が少ないからかもしれない。
そんなことを考えながら、何気なく窓の方を見て、あたしはびっくりした。
この空き教室の窓から、あたしのお気に入りの木がよく見える。
この高校のグラウンドにある大きな木。
その木を見ると落ち着くことができた。
だから決めた。
あたしはなるべくここに来ようって。

あの日から、あたしはほぼ毎日空き教室に通ってる。友美にも言ってない。
いつもHRが終わると1番に教室を出て、空き教室へと向かう。
短い時は、15分。
長い時は、30分。
サッカー部の練習を見たり木を観察して、絵を描いて見たり……。
色んなことをして過ごす。1人でいるのに、何故か楽しかった。

でも、あの日は違った。
いつもは長くても30分なのに、あの日はもっといたくて、最終下校時刻ギリギリまでいることにした。
サッカー部が今日は男女合同だ!なんて思っていると……
ガラッ!
ドアが開く音がした。
驚いて、あわててドアの方を見た。
そこに立っていたのは、ネクタイの色を見る限り、同じ学年だと分かる生徒。
あたしもびっくりしたけどそれ以上に彼の方がびっくりしてた。
少しの間、沈黙が流れる。そして、彼がおもむろに口を開いた。
「俺、1年の小林海斗って言うんですけど、さっきは驚かせてすいません。」
あたしもつられて言った。「あたしも同じく1年の赤峰沙織です。こちらこそ、驚かせてすいません。」
そう言うと、彼はニコッと笑って、今度は何かを考え始めた。
そしてパチンッと指を鳴らすとあたしに言った。
「赤峰さんのこと、しぃって呼んでいい?」
あたしはただただ不思議だった。
しぃなんて呼ばれたことがないから。
だからあたしは素直に思ったことを聞いた。
「なんでしぃなの?あたしはしぃなんて呼ばれたことないんだけど……。」
そう聞くと、小林君は嬉しそうに微笑んで、答えた。「しぃって呼ばれるの初めてなんだ。嬉しいや。沙織のりをとるとさおになるじゃん?さおといったら釣りだろ?釣りといったら海。海を英語でいうとsea。だからしぃ。」
そう言って、彼は得意げに笑った。
その顔を見て、あたしも彼に聞いたんだ。
「ねぇ、小林君があたしのことをしぃって呼ぶなら、あたしは小林君のこと、コウちゃんって呼んでいいかな?」
小林君はちょっとびっくりしたみたいだったけど、すぐに聞いてきた。
「いいけどさ、なんでコウちゃん?俺も初めて呼ばれるよ。」
返事を聞いて、あたしはコウちゃんに言った。
「今は教えない。言える時が来たら言うよ。」
コウちゃんは少し笑って、「わかった。」
って言ってくれた。
その後すぐにまた、パチンって指が鳴ったと思ったらコウちゃんはあることを提案してきた。
「なぁ、俺たち2人だけの約束を作らねぇか?」
「いいね、それ!」
あたしは乗った。
「じゃあ、まず1つ目な。俺たち2人は、お互いを絶対裏切らないこと。」
「裏切らない?それは何があっても離れないって感じ?」
「うん、そう。そしたら2つ目。俺たち2人の間に隠し事はなし。」
「何にも隠しちゃいけないの?」
「そう。じゃあ、3つ目。毎日この空き教室にくる。何か特別な用事がない限りね。」
「毎日か。オッケー。3つとも了解した。じゃあ、これから沢山約束を増やしていこう。」
あたしはこう言った。
最終下校時刻まではあと一時間くらいある。
でも、そろそろ帰ろうと考えていた時、コウちゃんが聞いてきたんだ。