あたしは部屋に戻ってはいない。
あたしが向かった所は………
湖だ。
湖って言っても、敷地内にある。
そこはあたしの大好きな場所。
ゆういつ一人で居られる…
「やっぱり、この湖にいたら落ち着くなー…。」
「ニャ~」
「りり…」
りりとはこの家で飼っている猫の名前。
りりは何故かあたしに凄く懐いている。
兄さんと姉さんにも少しだけ懐いているが…
だけど、母さんと父さんだけには懐いていない。
りりは家の中に住んではない。
外に住んでいる。
いつもどこで寝ているのかは分からない。
でも…りりはあたしが家の外にいたらあたしに近づいてくる。
「ねぇ、りり。あたし友達できたら……
殺すのかな?」
りりはニャ~と鳴くだけでなにも答えない。
「いいよね、猫って…暗殺なんかの仕事しなくて…。
あたし………
もう暗殺なんて……
やりたくないよ…」
あたしの目から温かいのが落ちていく。
これって……涙?
あたし……泣いているの?
初めて泣いた…
小さい頃、家族から泣く事を許されなかった。
だから…あたしは涙というものを見た事がない……。
「なに、泣いているだ。杏。」
「…!! 兄さん!?
な、なんで……この場所に…」
「なんでって…だって俺は杏をずっと監視してるんだから。
杏が余計な事をしているといけないからさ。」
「もう、あたしに構わないで!!」
「それは無理だな~…だって杏はまだ子供だからね。」
兄さんはアハハと笑いながら言った。
次の瞬間、兄さんはあたしこう言った…
「杏、なんで泣いている?
……もしかして、暗殺の仕事辞めたいって思ってないよね。」
「…」
あたしは無言で俯いた。
本当は、暗殺なんてもうやりたくない。
でも、殺らなきゃ父さんと兄さんが……
「杏。お前まさか暗殺の「あたし、暗殺の仕事辞めたい…」
「あはは…杏、それは無理だよ。
お前は俺と親父と美紀には逆らえない。
いや…逆らえないよう訓練したからね…」
…そういえばそんな訓練したな……。
『杏、お前は俺と美紀と親父には逆らってはいけないよ』と小さい頃兄さんに言われた…
あたしはあの日から…兄さん達から支配された。
「でも…でもっ!
もう、嫌なの…。
人を殺すのが。」
あたし、今自分の顔ぐちゃぐちゃだ。絶対…
なんで…兄さんはあたしの事分かってくれないの…
「嘘。人を殺すのが嫌なんて思ってない。
お前は、人を殺す時がお前の心を癒してくれるからね…」
あたしが……人を殺す時が心を癒す…!?
そんな…そんな訳ない!
ねぇ、兄さん。
兄さんはなんであたしの気持ちを……
分かってくれないの?

