つけっぱなしにされたテレビを見ながらソファーに座った。

濡れた髪から水滴が落ちて、洋服が少し冷たくなってる。




誰もいなくなった部屋はがらんとしてて、遥の匂いまで消えちゃったね…。

暖かかった温度もどこか冷たく感じて…寂しくなった。




「これ…。」

目に止まったのは遥の煙草。

近くに居るとメンソール独特の香りがするんだ。
くしゃくしゃになった袋から、1本抜いて口に加えてみた。


口に触れただけでミントの様な味。
火を点けて肺の奥まで吸い込んだら…。



「ゴホッ、ゴホッ…まっずぃ。」

煙草って舌が苦くなるんだ。とりあえず杏奈の大人記念は遥の煙草。


そんな事で遥に近付けるなんて簡単な事だけど、遥と同じ物を共有する事でしか…、杏奈には考える力がなかったんだ。





同じ煙草を吸って、同じ香水をつけて。

遥の好きな靴のステッカーをこっそり貼り付ける。




同じ心を持つ事は出来ないから…。


でもね、1番欲しかったのは…。








遥からの、好きって気持ちだったんだよ。