SPRING ★ SPRING ★ SPRING

「時間ないし、俺行くから。
先帰れよ。」


さすがに鞄一式をもって行くわけにも行かず
筆箱と進路調査票を手に教室を出た。


去り際に通りかかった時
ドアの脇でたむろしていた女子の会話が漏れ聞こえた。


「最近、保澄さんしつこくて
渋沢君かわいそうよね。」


と俺は意外と同情的にとらえられているらしい事が分かったけど、
その言葉には人間のありったけの醜さが詰め込まれている気がして
思わずしかめた顔を彼女たちから背けた。


ちょっとかわいくて人気のある結衣への嫉妬心から
彼女が彼氏に邪険にされている事に悦を感じ
彼女を苦しめる俺を養護する。


そんな思考回路がありありと見て取れて
何とも言えない複雑でいやな気分になるのだ。


まあだけど正直な所、こう言う時一番いやな事は
自分だってけっして清廉潔白な正義を掲げたりはしないくせに
偉そうに他人を醜いと嫌悪する自分自身なのだけど。


廊下を歩きながら
どこに行くか少し迷った。


鞄を置いてきた以上は
学校からは離れられない。


もちろん校内にも身を潜める場所がないわけではない。


だけど少しの思案の後、俺は職員室を目指す事にした。