妙にリアルな夢から覚めた時みたいに
見慣れたはずのコンクリートのマンションとか、金属の玄関の扉とか、ワックスのかかったフローリングとか
当たり前だった物たちに、どうしようもない違和感がまとわりついてくる。


そして、
それに引き出されるように
めまいににた混乱がわき上がって。


土手の緑や黄緑や、河原の石の光沢ある灰色や、コスモスのピンクに近い紫や、空の紺碧や赤い日差しの鮮やかさと
目の前の現実色した人工物のマテリアルの狭間、
どっちつかずの半端な場所に置き去りにされたみたいに、なんだかもの寂しいようなおかしな感じがする。


それでいて
そんなわからない感情に取り付かれた自分を
いぶかしむような、疑うような、妙に冷静な観察者の目で見ている自分も確かに存在して。


ふと、土手でバネに延ばしかけた右手の一瞬の浮遊感を思い出し
羅針盤を失った難破船みたいな不安の足音がかすかにだけど聞こえた気がして
あわてて頭を振る。


短い廊下の途中、物置の戸棚からころころテープを取り出し
そのまま突き当たり、自室に入った。