気を使って
自宅のあるマンションに入る前に制服をはたいて草を落とす努力はしたのだが
あまり報われなかったので、エレベーターではなく外階段で7階まで上る事にした。


何年ぶりだってほど、バカみたいにはしゃいだ体は疲れてて
細かいステップにあわせてちょこちょこ動かす脚がだるい。


かさかさした草の欠片が靴の中にまで入り込んでいて
靴下に刺さってちくちくする。


段差の連続と踊り場を繰り返し気が遠くなるほどぐるぐると続く
コンクリート階段に響く覇気のないスニーカーの靴音。


目が回りそうだと思った頃
壁に掲げられた7の数字がやっと目に入って
ため息に似た息を一つ。


703の数字と、渋沢の表札の脇
冷たいノブを回す。


防犯のためなのか、防音のためなのか、やたらと重い扉は
鍵が開いてる。


いくらエントランスがオートロックだからって
家の鍵くらいかけろと言っても、
鍵は出かける時にかけるものだと言うスタンスを崩さない母が、おそらくリビングにいるのだろう。


「ただいま。」


ぼそりとつぶやいて、靴と靴下を脱いで家に上る。