SPRING ★ SPRING ★ SPRING

いつも結衣を乗せているから二人乗りにはなれているし
しかもバネは軽かった。


にしても、後ろのバネがやたらと静かだ。


「初自転車はどうだ?」


前を向いたまま尋ねる。


「う、渋沢。
自転車って何だか不安定な乗り物なんだな。」


返ってきた完全にこわばったバネの声にそっと後ろをみると
ひどくひきつった顔が見える。


「もっとちゃんと捕まれよ。」


顔には書いてあったけど、怖いと正直に言わなかったから
ペダルを踏む足をゆるめずに言った。


「捕まると言っても渋沢の背中には吊革も手綱もついちゃいないじゃないか。」


声の調子は必死みたいだったけど
思わず笑った。


「う、笑ってもいいから背中を揺らすな、渋沢。」


全くもって小学生みたいないじのはりかただ。


「ほら、こうやっとけよ。」


ハンドルから離した片手でバネの腕を引き
俺の腰に巻き付けて自転車のスピードを上げる。


「う、ん。」


しばらくは妙に力の入っていたバネの体が
だんだん自然に戻って行くのが背中でも分かった。


「渋沢?」


「何だよ。」