「お?」


先に歩き出したバネの背中に声をかけると
口と目を見開いた間抜け面が振り返った。


「ほら、全身ひどい事になってるぞ。
ってか、朝から草まみれとか何やってたんだよ。」


スカートをバサバサしはじめたバネの横に自転車にまたがったまま近づき
ブレザーの背中を軽く叩いて手伝ってやる。


「土手の下にコスモスが咲いていたんだ。」


「コスモス?」


「うん、きれいな薄紫色のやつ。」


「ああ。」


「それでな、
それを見るために土手滑りしようとしたのだけど
渋沢は知らないかもしれないが、スカートと言うのはそういうのに向いていないんだ。」


「ああ、……?」


「だから芋虫みたいにごろごろ転がって降りた。」


「って、何で歩いて降りないんだよ。」


「お?
なるほど、思いつかなかったな。」


「おい。」


男みたいに短い黒髪をぽんと叩きながらも
思わず顔はほほえんでいた。


「ん?
どうした、渋沢?」


そんな俺を
心底不思議そうな顔のバネは
ちびだからめいっぱい上を向いて見上げてくる。


「だいぶ草も取れたし、そろそろいいだろ。
後ろ乗れよ。」