そんな変わり者と気があうとは正直思えないし
昨日担任は俺の事を何か特別のように言ったけど
実際はどこにでもいる無気力で怠惰な高校生に少し理屈っ気を加えた程度で、ごく普通なのが俺だ。


しかも俺は
面倒な事には極力首を突っ込みたくないと思っている。


それなのに今
問題児春日泉と話すために一時間も早く学校へ向かって
自転車のペダルを踏んでいる。


そんな矛盾が不思議と心地よかった。


秋の朝は意外と涼しくて
昼間には暑いブレザーも今なら当然の装備に思える。


頬をなでる風に視線を上げれば
もう学校までの道程の半ばの土手にさしかかっていて
視線の端にヒョコヒョコ動く紺色の陰を見つけた。


車輪の回転をゆるめ目を細めて見つめると
視線に気づいたのか小さなそれは動きを止めた。


「渋沢ぁー!」


そして
辺りに容赦なく響く大声で叫びながら
春日泉が疾走してきたのだった。


「春日?」


つぶやいて自転車にまたがったまま止まった俺の前で
ぴたりと立ち止まった春日は呼吸も乱さずまじめな顔で言った。


「渋沢は頭が弱いのか?
私の事はバネと呼ぶ事と言ってからまだ13時間くらいしか経っていないはずだぞ?」