SPRING ★ SPRING ★ SPRING

「渋沢がここまでおもしろい奴だったなんて
俺はこの半年惜しいことしたな。
今時の少年少女もまだまだ捨てたものじゃないと
愚鈍な中年はすぐに忘れてしまうから情けないかぎりだ。
教師じゃなくて伯楽になるのが俺の目標なんだが
今まで何頭の名馬を逃してきたことかと思うと悔しくてたまらないな。」


なんてつぶやいた後
ぱんと膝を打った。


「じゃあそろそろ本題に入るか。
内申はともかく模試の結果を見るかぎり
今の所渋沢の弱点は社会くらいだ。
それもどうせ歴史なんて暗記する気がなかったから勉強しなかったんだろ?
これから勉強すれば何の問題もない。」


と、あまりにあっさりした本題に拍子抜けしながら
俺は言った。


「うちのクラスって私立理系ですよね。
現に俺の時間割には国語も社会ももうありませんし。
そんなんで国立受験ってできるのかなと思って。」


「たしかに国立クラスみたいな授業を受けた方が
たいていの人間にとっては国立受験には有利だ。
だけど渋沢みたいな奴にはそう言うのが向いているとは俺には思えない。」