SPRING ★ SPRING ★ SPRING

わけの分からない言葉で答えをはぐらかした中年を眺めた。


「さっきから現代文現代文って
数学教師なのに皮肉な事に国語崇拝者なんですか?」


一般的なお堅い教師ではない中年に振り回されて
どこからつっこみを入れれば良い物か分からなくなってきたので
と、とりあえず質問した。


「確かに俺は数学を教えているが
あくまで日本語を使って数学を説明しているんだ。
俺の授業を理解するのに苦しんでいる奴らの8割近くが
単に日本語の説明文を理解するのが苦手なだけなんて事がざらにある。
いいか、高校の授業なら
たとえ英語でさえ日本語で英語を説明しているにすぎない。
つまり言い換えれば、現代文ができないと実の所お話にならないんだよ。」


と力説してみせる姿には
公立高校の教師のくたびれた雰囲気ではなく
予備校講師のようなめりはりのある魅力が備わっているように思えた。


「へえ、先生すごいですね。
思わず聞き入ってなっとくさせられそうな説明です。
たぶん高校教師やめても詐欺で食べて行けるくらいの才能あると思いますよ。」


とほめてつかわすと
これまである程度の風格は備えていたはずの中年が
いよいよけらけらと笑いだした。