「美咲~!部活行こ!」

声をかけてきたのは同じバレー部の加藤リナ。

『うん、行こ!』

旭橘高校に入学して、もう3か月。雨のおかげで暑い日がある7月の初め。
学校生活にも部活にもだいぶ慣れてきたころ。

「美咲、着替えた?早くパスしよ!」

部室に着くなりさっさと着替えて私をせかしてくるリナ。

『ちょっと待って~』

「じゃあウチ先に行って自主練してるから!」

と言って先に行っちゃった。
リナは最近、部活をかなり張り切ってる。
まあ、張り切るのもわからなくはないけど。7月の下旬に1年生大会があるから。
普段の部活だと、ほとんどボール拾いの1年生にとって初めての大会が一年生大会。
1年生の中で一番ボール拾いを頑張ってたリナにとって、コートの中で堂々とバレーが練習できることは嬉しくてたまらないんだと思う。でも私はいくら嬉しくても、このジメジメして空気がどよ~んとしている気候じゃ、どうにもリナみたいに張り切れない。
いつものスピードで着替えた私は、ゆっくりと立ち上がって、ゆっくり部室を出た。


体育館に入るとバレー部の隣のコートで、男子バスケ部(男バス)が練習してた。
男バスが練習している中で、華麗にダンクシュートをきめた人がいる。
今井昴。私の彼氏。男バスの中の1年生では一番うまいと言われてる。県選抜に選ばれてるとか。昴とは付き合って一か月が過ぎたくらい。バスケ大好き人間。一言でいうとものすごく
クール。言葉数も多くない。身長は178cm。肌はちょっと黒め。付き合って一か月デートもろくにしたことがない。旭橘高校の男バスは強豪校で休みと言えば遠征や合宿で、めったに
休める休日はない。そのせいか手もつながないし、キスもしない。まあ、別にいいけど。

「ちょっと~!遅い!昴クンに見とれてないで早くパスしよ!!」

リナはちょっと不機嫌になっていた。

『あ、ごめんごめん』

そんな見とれてないし、1分や2分の遅れたいしたことないじゃん。言うのも面倒くさくて、その言葉を飲み込んだ。

そう、これが私の悪いクセ。究極の面倒くさがり屋。言いたいことがあっても
言うと面倒くさそうだから言わないで飲み込む。当然ストレスはたまる。でも面倒くさいものは面倒くさい。もともと女の子っぽい性格ではくサバサバしてる。だから昴にも手をつなごうと言おうとも思わない。女の子なら普通、手をつなぎたいとか思うんだろうけど、私は違う。相手が何も言ってこない以上、なにもしない。じゃあなんで昴と付き合ってるんだろう。たしか昴から告白されて、OKした。あの時は確かに私は昴のことが好きだった。でも今では本当に昴のことが好きなのかわからない。嫌いではないのは確か。面倒くさいからそこらへんは、よく考えないようにしている。最低だな、自分(苦笑)。


パス→サーブ→スパイク→サーブカット→ゲーム

だいたいの練習の流れがこんな感じ。相変わらずリナは最初から最後まで全力でやり切っていた。でも、私は極力汗をかきたくなくて省エネでやり切った。

「あ~、疲れた~!でもいい汗かいたな♪」

汗だくになった練習着から制服に着替えて、嬉しそうに言うリナ。
ありえない。そんな汗だくになるまでよくやれるね。そう思いながら自分もそんなに汗をかいていない練習着から制服に着替えた。

『お疲れさまでした~』

と適当な挨拶をして部室を出ると、体育館の玄関で昴が待っていた。

「よお、お疲れ」

『お疲れさま』

軽い言葉を交わして歩き出した。昴の隣を歩くと改めて身長高いな~なんて思う。
バスケをしていると周りの人も身長が高くてあまり実感しなかったけど。私は160cmだから18cmも差があるんだな。そんなことを考えてると、昴が口を開いた。

「今日、具合悪いの?なんか部活中そんな動いてなかったし」

正直ビックリ。昴が部活中、自分のことを見ていたなんて。バスケ大好きだから
私のことなんか目にもとめてないと思ってた。

『そうだったかな、別に大丈夫だよ』

なんてそっけないセリフ。もっと女の子らしい言葉はないのか。
でも汗をかきたくなかったなんて言えないし。

「そか、ならいい」

と昴は言ったきりまたしばらく二人に会話はなかった。
これはカップルと言えるのかな。昴はクールだがたまに優しい面を見せる。
根拠はないけど、その優しさから自分に対する昴からの好意を感じることがある。
でも昴は私からの好意を感じているのかな。私は相手に好意を伝える高度な技術なんて持ってない。もともとだ。好きとか言うキャラでもない。こんな私と付き合ってて昴は満足なのかな。いろいろ考えていると、あっという間に時間が過ぎて、昴が、

「じゃあ、また明日ね。」

と言った。気づけばもう自分の家の前だった。

『あ、うん。また明日ね』

昴と別れて家の中に入った。

「はぁ」

ため息が出た。なんだか考えること自体が面倒くさくなってきた。
どこまで最低な人間なんだか。面倒くさくなった私は自分の部屋に直行し布団にダイブした。