まだ知らない愛。

「ごめんね?」
放心する私の耳元でそう言うと綾芽さんは髪をなびかせて出ていった。
ごめんね?それは何に対して謝ったの?
最後に小さく呟いた綾芽さんの言葉。
「私には瞬が必要で、瞬も私が必要なのよ」
どういうこと?
瞬さんはまだ綾芽さんのことが好きで、綾芽さんも瞬さんのことが好きなの?
じゃあ、どうして瞬さんは綾芽さんと翔は付き合ってると言ったの?翔さんのお兄さんと綾芽さんは付き合ってるのに?

混乱して一歩も動けず立ち尽くしている私は人が教室に入ってきたことも知らないくらい放心状態だった。
「何してんだよ」
後ろから聞こえた翔の不審そうな声は静かでゆっくりと頭に入ってくる。
「…翔」
「あ?」
「何が本当で何を信じればいいの…」
「…」
ポタポタと制服にシミが出来ているのは私が泣いているから。誰かを想い泣くなんてことは初めてだった。止めようとしても止まらない涙は次々に落ちていく。
そんな私を後ろから引き寄せて抱き締める力強い腕。
「なんで泣くんだよ」
「…」