まだ知らない愛。

暴走ではヤクザのお兄さんが運転する車に私と瞬さんが乗り、バイクの最後尾を走る。
道路に溢れるように走るチームのみんなの速度は半端なく速くてその後ろを走るこの車も半端なく速かった。
ちょっと絶叫マシンに乗った気分になりながら窓の外を見ていると私の手に瞬さんの手が重なる。
「…ごめんな」
聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声でつぶやかれた言葉。
「なんで謝るの…」
何に対して謝ったの…?
遅れたこと?
遅れた理由が言えないこと?
遅れた理由が…女の人といたということ?
誰も女の人といたなんて言ってない。
だけど微かに香った香水の匂いはキツく、
まるで私のものよと言われている気がした。

「俺から…離れないでくれ」
それはまさしく私が言いたい言葉。時々いなくなる瞬さんに離れないでくれと言われてもどうしようもない話に少し笑えた。
「瞬さん、綾芽って誰なの…?」
「なんで知って…」
「この間、瞬さんの携帯が鳴ってて。綾芽って表示されてたから…ごめんなさい」
「…」
なんとも居心地が悪い空気が車内に広がる。
無言で運転するお兄さんに申し訳ないくらいで
あとで謝ろうと思った。
「あいつは…真藤翔の女で俺の元カノだ」
瞬さんの…元カノ…。
言葉が頭の中でループして考えたくないのに考えてしまう頭は私の意志とは反対に朝の光景を思い出す。
慣れたように瞬さんの肩に手を置く綺麗な女の人。私があの人みたいな…と憧れた女の人。
確信はないけど、あの人が綾芽さんだと思う。
朝、私の前を通りすぎたあの人からはさっき香った香水と同じ香りがしていたから。
「どうして…今日遅れたの?」