「そんな帝を見て、俺達は動けなかった。
だけど、唯一動いた奴が居るんだよ」
そう言うひびきん。
ひびきんは龍雅達の1代上だ。
「誰ですか?」
颯哉が気になるのかそう聞いた。
まぁ、あたしも気になるけど。
「狂蝶、だ」
「狂蝶…」
たっちゃんの言葉に、あたしは堪えていた涙を零した。
憐、やっぱり来てくれたんだ…。
当日に来れなかったから…。
「なんで狂蝶が…?」
昂夜が不思議そうにそうたっちゃんに聞いた。
「狂蝶が唯一、帝が心許せる人間だったからだ」
お父さんはそう言うと、立ち上がってこっちにやって来た。
そして、涙で視界がボヤけてるあたしの目の前にしゃがんであたしの頭を撫でて来た。
「憐はな、お前がちゃんと前を向いて歩けるように裏で動いてんだよ。
表で帝を支えてた裏で、お前が恨みを買った奴らの恨みを1人で引き受けて帝の重荷を減らしたりしてたんだ」
「…え?」
「でもな、それは憐が強いからだ。
帝を守りたい一心で馬鹿みたいに喧嘩売って恨み買って…だけどアイツは、絶対に負けない。弱みを見せない。
…ホント、強い奴だよ」
あたしは憐の事を聞いて、更に涙腺が緩んだ。
ポロポロと絶え間なく流れて行く涙。
憐だって、辛いんだ。
なのにあたし、憐に頼ってばっかで、甘えてばっかで…なにもしてあげれてない。
「あた、し…憐の事、なにも知らなかった」
憐はあたしの為に動いてくれたのに、あたしはなにもしてない。
誰かの為に動いた事、一度もない。
全部全部、自分の為だ…。