「俺達は帝にどんな事があろうと受け入れますよ」



あたしの隣に座る龍雅がそう言うと、他の幹部も頷いて真っ直ぐお父さん達を見据えていた。
…ヤバい。泣きそう。

あたしは溢れてきそうな涙を堪えて、深呼吸を一つした。
そして、目の前を真っ直ぐ見据えた。


今ならちゃんと向き合えそうな気がするんだ。
柚稀や日向と。



「じゃあ、柚稀くんの事は後で帝に聞くとして…泉崎の事から話そうか」



龍雅の父親であり、影籠2代目のやっちゃんがそう言った。
柚稀の事、話さなきゃいけないんだ…。
頑張ろ。



「龍雅はもう、知ってるだろーが…泉崎は娘を利用して狼龍を潰した。もちろん、一人残らず射殺してな。
だが、泉崎は人が悲しみに狂うのを見るのを快感と感じてるような腐った人間だから、帝の目の前で次々と殺していったんだ」



やっちゃんの事に、あたしはその日の光景が蘇ってきた。
拳銃を振り回して逃げ惑うメンツを誰構わず撃ち殺す泉崎を。
それをあたしは2階から見てるのが精一杯だった。
立ち向かう気にもなれなかった。
“恐怖”があたしを呑み込んで、その場に立ち竦んで動けなかった。

そして、気付いた時には辺り一面血の海で…遠くから救急車のサイレンの音が鳴り響いていて、それでも動けなくて、いつの間にかたくさんの救急隊員が倉庫に埋め尽くしていて狼龍のメンツを運んでいた。


そして、あたしは泣き叫ぶように発狂して意識を失った。
だから、その後の事なんて分からない。
ただ分かる事は、誰かの腕に抱かれていた事だけ。
ギュッと、力強く。



「俺達が駆けつけた時にはもう、辺り一面血の海で誰一人として立ってるモノなんか居なかった。
2階に立ち竦んでいた帝は……目に光を宿してなかったし、心此処に在らずだった。
そして発狂して意識を失った。
それから5日ぐらい目を覚まさなかったよ」



そう言ったお兄ちゃんの目は悲しげだった。
その目をさせてるのがあたしだと思うと、酷く悲しくなった。