僕は旅人になった。
それは、彼女に出会った夏の暑い日だった。

路上には陽炎(かげろう)ができ、コンクリートが熱湯の湯気を出しているかのようだった。車の騒音が暑さをより増させた。

そんな日に僕は、自分の街を出た。
2両しかない電車に乗り、誰も隣には座らない寂しい乗り物としか写っていなかった。
そんな巨大なものなのに小さな存在として写っていた。自分がまるで小さな存在と気付いたような感じだった。
次の駅で電車を乗り換え、僕は周りの田園を何も考えずに外を見ながら乗っていた。
しかし、電車は僕の心と同様に振り向かずに真っ直ぐな路線を夕日を背に突き進んでいた。
忘れた気持ちは、頭で忘れていても心から忘れられないそんな気持ちだった。
田園には、一人の年老いた男が力強く働き生きていた。
そんな男に僕はあこがれていたのかもしれないがなりたくなかった。
だから街を出た。