ノーチェ



確かに、今までの菜月は地位や経済力で男の人を選んでた。

何の車に乗ってるとか
どこに住んでるとか
年収はいくらとか。



それに比べたら、啓介くんは従業員も居ないバーで一人、休みもなく働いていて。

年収だって車だって、今まで菜月が付き合ってた人とは随分かけ離れた生活を送ってる。


見た目は遊んでそうだけど、根はすごく真面目な人だっていうのも
ここ数日あのバーに通い詰めて、あたし自身もよく理解してた。



何よりも、菜月の真剣な瞳が地位や経済力だけで
啓介くんを好きになったんじゃない、とあたしに問い掛けてくる。


「…そう。わかった。じゃあ、応援するよ。」

「莉伊!本当に?」

「うん。今度こそ、幸せになりなよ?」

「莉伊~っ、ありがとうっ!」

菜月があたしに飛び付いてきて、ふんわりと甘い香水があたしの鼻をくすぐった。



それと同時に
あたしの虚無感が広がってゆく。


……あたしの幸せは、一体どこにあるんだろう。