ノーチェ



「薫。」

と、呼び掛けると
薫は煙草を吸いながら振り返り、少しだけ口を上げて再び前を向いた。

あたしは薫の隣に並び、まばらな星が浮かぶ夜明け前の空を見上げる。




「…ありがと、ね。」

「あ?何が?」


そう言ったものの、すぐに意図を理解したのか
あぁ、と呟いた薫は煙草を消してポケットに手を突っ込んだ。



「彼氏に祝ってもらうんだろ?」

「……うん。」


彼氏、と言う響きはやっぱりピンと来ない。

だけどそれは薫もよくわかっているだろうから何も言わなかった。


『梅雨が終わったらさ、どこか行こうか。』

あんな言葉、信じても仕方ないのに。


…だけど、桐生さんを信じてる自分を
信じていたかった。



やっぱり、嬉しかったから。


ただ、信じたかった。