「莉伊。」
名前を呼ばれて
はっと我に返る。
「あ、ごめん…!」
感情が顔に出ていたのかあたしは慌てて笑顔を作った。
「平気、心配しないで。」
念を押して薫に言うと
彼はまだ心配そうに眉を下げた。
「それより百合子さんに早く連絡してあげてね。すごく心配してたから。」
桐生さんを振り払うように話を薫に持っていく。
いつの間にか窓の外に雨が降ってるのが視界の端で見えた。
ジャズに混じる雨音がやけに耳障りで
沈黙の中、薫の言葉を待つあたし。
そして薫は無表情で呟いた。
「もし、また百合子が来たら言っといて。俺はあの家には帰らねぇって。」
「え?」
それって……。
「じゃあ、百合子さんには連絡しないの?」
「……あぁ。」
煙草に火を付けた薫は置かれたままのメモをぐしゃっと手の平で潰す。

