ノーチェ



…………

雲行きが怪しい。

湿った空気と、窓から差し込む薄暗い光がそう感じさせる。


さっさと要件を伝えて帰ろう、と思った。



「これ、」

まだ夢の中を彷徨ってるような薫に
メモをテーブルに差し出した。



「至急連絡して、って。」


ボサボサの寝癖を掻きながら薫は寝ぼけ眼の瞳を細く開く。

カウンターではカチャカチャとグラスがぶつかる音が響き
遅れて、コーヒー独特の香りがあたしの鼻をくすぐった。




「百合子、お前の所に行ったんだ。」

「…うん、昨日来た。」


お前、と呼ばれる事に疑問を感じたけれど
それよりも薫が彼女を

“百合子”と、呼んだ事に二人の仲の深さを感じる。



「じゃあ、あたしはこれで…」

役目を終えてカバンを手に取ると
カチャン、とアンティークなカップに注がれたコーヒーがあたしの目の前に置かれた。