ノーチェ



いかにも遊んでそうなその人は肩上まで伸びたパーマのかかる髪の毛をかき上げて

「まだ開店前だから、入れませんよ。」

とあたしに笑い掛けた。


屈託のない笑顔。

苦手だ、と直感的に思った。



「あ、いえ…飲みに来たんじゃなくて…。」

顔の前でブンブンと手を振るあたしは
「え?」と首を傾げる彼に

「薫さん、居ませんか?」と尋ねる。




「あぁ、薫の知り合いなんだ?」

「いや、知り合い、というか…。」

「ちょっと待ってて、今寝てるだろうから起こしてくるよ。」

「え、いや、あの!」


あたしの話など耳を貸さず、彼はバーの中に戻ると

「この店の上、あいつに貸してるんだよね。」

と付け加える。



そのまま視線を上に向けると、彼の言った通り
バーの上はアパートのような小窓が見えた。