…塚本総合病院、ね。
ふいに思い浮かぶあの言葉。
―『自分削ってまで追い掛ける恋愛に、未来はねぇよ。』
まるで呪文のように
頭の片隅から離れない。
だからこそ、あいつには会いたくない。
「いいなぁ、莉伊もいい男捕まえたよね。」
「だから、そんなんじゃないってば。」
落としたバケツを拾い上げ、再び新しい水を汲み入れる。
今日も彼は
傷だらけのエンジニアブーツを履いて
腰から下げたウォレットチェーンを鳴らしているんだろうか。
オレンジに色付いた薫の笑顔が浮かぶ。
エプロンのポケットに突っ込んだ紙切れをそっと開いてみた。
『090-XXXX-…
百合子』
…百合子さん、って言うんだ。
輝く黒髪、大きく濡れた瞳に、雪のように華奢な腕。
彼女にピッタリな名前だと思った。
花のような女性、まさに美しい人って感じ。
一つ、溜め息をこぼしてあたしは再びエプロンのポケットにメモをしまった。

