あたしの返事が不服だったのか、それとも予想外だったのか
目を丸くした彼女はすぐに瞼を伏せて
「そう…。」と小さく呟いた。
だけど彼女はすぐに顔を上げてあたしに踏み寄ってきた。
「じゃあ、薫に会ったら伝えてくれませんか?」
「え?」
戸惑うあたしに彼女はカバンの中から紙切れとボールペンを取り出し、走り書きしたそのメモを差し出す。
「至急連絡して欲しい、そう伝えてくれればいいですから。」
「い、いや、でも…。」
なかなか受け取ろうとしないあたしに
彼女は無理矢理手渡して
「お願いします。」と、大きな瞳を向けて懇願する。
そして唖然とするあたしに一礼して
まだ小雨の降る外に向かって踵を返す。
「ちょ、あの、」
呼び止めたあたしの声が聞こえなかったのか
彼女の姿は雨の降り注ぐ街に消えた。

