ノーチェ





悪い事をしてる、自覚はもちろんあった。

抱かれる度に、キスをもらう度に、奥さんの影がちらついた。




それでも彼は
あたしを受け入れてくれた。

彼も、あたしと同じ罪を背負ってる。


桐生さんの温もりから抜け出せないのは
同じ痛みを分け合っているから。




だけどもしかしたら
彼はあたしを抱く事に罪など感じていないのかもしれない。




それでも―――…





「…ふーん。」

自分から聞いてきたくせに大して興味のなさそうな返事をすると


「まぁあれか、好きになった人は結婚してましたぁー、ってありがちなやつか。」

と笑いながら窓を開けた薫。


そんな彼に、あたしは何も言えなかった。




バカにされてる、とわかっていても
薫の言った事に間違いはなかったから


あたしは口を閉ざし
ただ、前を見据えてアクセルを踏んだ。