ノーチェ



コマ送りのように変わる見慣れない景色。


右、左と薫が指示する通りに黙々とただ運転するあたしは、店長に遅くなった理由を何て答えればいいか考えていた。


だけど渋滞してて、とか道に迷った、とかありきたりな言い訳しか思いつかない。




そして結局上手い言い訳も思いつかないまま、再度信号待ちに差し掛かった時

「なぁ、」と薫がおもむろに口を開いた。




「あんた、何で不倫なんかしてんの?」

躊躇いなどない、裏をかいたりしない、ストレートな薫の問い掛け。

横断歩道を横切る人の群が流れるように過ぎてゆく。



泣き出しそうな灰色の雲がゆっくりと上空を漂って。


「……悪い、事…なのかな。」

あたしは言葉を選びながら、そう呟く。



「…好きなんだもん、仕方ないじゃない…。」


グッとハンドルを握り締めて、口調を強めた。




「ただ、好きなだけ。それだけ。」