ノーチェ




「あ、あなたこそ、何して…、」

しどろもどろになるあたしに構わず
彼はにじり寄ってくる。


歩く度にウォレットチェーンが鳴り響く。

そして擦り切れたブーツを止めると

「何って、ここ俺ん家。」

そう言って指差した表札には大理石に彫られた『塚本』という文字。




『俺、塚本 薫』

ふいに過ぎる、昨日の夜の出来事。



最悪だ……。




そんな時、

「……薫?」

門の向こう側から投げられた声。




―――え…?


あたしと薫の視線がその声の主に向かれた。




「薫、帰ってきたの!?」

ガチャン、と勢いよく門を開けた彼女は
そのまま薫へ掴みかかった。


薫は困ったように溜め息を落とす。