ノーチェ



アクアから少し離れた街路樹の下、長く続く沈黙の中で聞こえるのは

たまに通り過ぎる車の音と、薫が吐き出す煙の音だけ。



「……悪かったな。」

「…ん?」

ポツリと聞こえた薫の声に顔を上げると、切ない視線がぶつかる。


その瞬間、ドクン、と心臓が高鳴った。




「お前に会った、最後の日。あんな事、言って悪かった。」

「………ううん。」


あんな事、って
行かない方がいいって言った事?

それとも―――…



『――…好きだ。』




わからないまま、薫は話を続ける。




「俺さ、お前に初めて会った時…。」

少し躊躇いがちに視線を地面に下げた薫は
短くなった煙草をブーツで揉み消して呟いた。



「何でこいつ、こんなに傷ついた顔してるんだろう、って思った。」