ノーチェ



まだ、何も聞かないで。

―――お願い。




ぎゅっと唇を噛み締めてあたしは静かに薫の言葉を待つ。

だけど次の瞬間、二人を裂くようにあたしの手の中で携帯が鳴り響いた。



意識がふっと、戻されてあたしは咄嗟に携帯の画面に視線を向ける。




【非通知】



照らされた、その文字。

ドクンと心臓が音をあげた。




どうして―――…




「…莉伊?出ないのか?」

画面を見つめたまま、動かないあたしに薫が尋ねてくる。

上げた視線に、薫と目が合った。



「………彼氏?」

その言葉に、悲しみが含まれているように感じたのは
気のせいだろうか。



一向に鳴り止まない携帯電話。


あたしは少し薫から離れて、震える指で
通話ボタンを押した。




「……もしもし…。」