「莉伊。」
ふいにあたしの名前を呼んだ声が背中から聞こえた。
夏の終わりに、よく似合う声。
「……薫…?」
振り返り目を細めて、そう返事を返すとゆっくりと月明りに浮かぶ茶髪。
そしてどこか懐かしいウォレットチェーンの音。
「…仕事、お疲れ。」
タンクトップの上の薄い半袖のシャツから覗くネックレスが揺れて。
あたしはその姿に、思わず視線を逸した。
どうして、なんて無意味な言葉。
彼から目を外してるのに薫が今、どんな顔してあたしを見てるのか
手に取るようにわかる。
胸が、締め付けられた。
そして二つの影が隣に並んで、俯く視界に
薫の靴元が見えた。
目の前に立つ薫に、あたしは顔を上げられない。

