彼女が桐生さんの奥さんだなんて、一体誰が考えていただろう。
世間は狭い、そうよく耳にするけれど
ここまで偶然が重なるとその言葉もあながち嘘じゃないんだと思った。
…あたしは、百合子さんを傷つけてる。
いや、あの様子じゃ
桐生さんがよそで他の女を抱いてるなんて、思ってもいないのかもしれない。
でも、百合子さんが傷つく事は薫が傷つくのと同じ事で。
それはイコール、あたしも傷ついていて。
身勝手な自分が
一番許せなかった。
「じゃあ、お疲れ。」
「うん。じゃあね。」
また明日、そう言い合って花屋の前で菜月と別れる。
菜月は多分、そのまま啓介くんの所に行くのだろう。
後ろ姿から
菜月の嬉しさが伝わってくる。

