最凶の天使

 山の入り口付近であるため、落石予防のネットが設置されていないようだ。

 足の先に感じる堅さは山の周りを固めているコンクリートだろうか、それに気がついて幸子は再び青ざめる。

「降りてこい」

 ふいに聞き慣れない男の声がして幸子は眉を寄せた。

 そうだ、自分たちは追われていたんだと思いだし、あれだけ叫んだのだから見つかって当たり前だと心臓が高鳴った。

「大丈夫かい? 先に降りるから体勢を立て直して」

「うん」

 強ばる間接をなんとか動かし、ぎこちなくぺたんとしゃがみ込む。

 すると、下に見えるスーツ姿の男たちにギョッとした。

 ぱっと数えただけでも5人ほどがいて、みんな何か黒い塊をダグラスに向けている。

 テレビでしか見たことがない拳銃に幸子は身震いした。

 テレビの拳銃だって本物じゃないのに、ここでオモチャの拳銃なんか突きつけるはずがない。