「大丈夫?」

 日本語で尋ねられて幸子は我に返り、

「は、はいっ」

 思わず声がうわずる。

 そしてふと、青年の服装に目が移った。

 深緑のカーゴパンツに群青色のベスト、その下には厚手の長袖を着ている。

 腰には麻のウエストポーチが巻かれていて、小さめの黒いリュックを背負っていた。

 このハイキングコースではさして珍しくもない格好だが、幸子は何故だか少しの違和感を覚えた。

 電話番号を訊きたい気分だったが、相手が妙に急いでる素振りだったので残念がりながら離れようとしたとき──

「きゃあ!?」

「ごめん!」

 いきなり腰の辺りを抱きつかれてそのまま抱えられ、道から外れて倒れ込んだ。