そうして、何度目かの移動を終えて幸子はお腹がすいたとバックパックの中身を思い起こした。
確か、もしもの時にとクッキーとチョコレートを入れていたはずだ。
「ねえ」
「なに」
「ちょっと食べていい?」
お腹すいちゃったと出来るだけ可愛い仕草で腹部に手を当てた。
ダグラスはそれにも無表情な眼差しを向け、
「あんまり食べないようにね」
何があるか解らないから。
その何かが起こって今こうなってるんですけどもね。
幸子は心の中で低くつぶやいてチョコレートを取り出した。
板チョコは二枚ある。一枚を仕舞い、一枚のアルミ箔を一列分だけ破いた。
そうして、ひとかけを手に取り口に含む。
ほろ苦い甘さが口の中に広がり、自然と笑みが浮かぶ。